イベントレポート

デジタル化が進むCXを成功に導く要素や、事例をご紹介
セミナーレポート-IXC2021 コロナ禍におけるCXの取り組み・情報体験について考える

2021年3月19日(金)、トッパンフォームズ(現TOPPANエッジ)主催のWebセミナー「IXC2021(Information eXperience Conference 2021) ~コロナ禍におけるCXの取り組み・情報体験について考える~」を開催しました。
オンラインで開催した本ウェブセミナーの模様をレポートでお届けいたします。


⚫️基調講演
オンライン社会におけるコミュニケーションデザイン
−オンラインのメリットとデメリットをCXの観点から考える−

⚫️事例セミナー1
顧客体験(CX)を成功に導くための3つの要素

⚫️事例セミナー2
何から始める?CXとナッジ

※ 本記事の内容、登壇者のプロフィール情報はセミナー開催当時のものです。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。​


コロナ時代に顧客体験(CX)とどう向き合うか

新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの生活様式は大きく変わりました。対面でのコミュニケーション機会の減少により、顧客体験(CX)においてもデジタル化が急速に進み、さまざまな分野で従来型の体験の変化が加速しています。
オンラインでコミュニケーションをとる機会が増え、新たなビジネスやライフスタイルの可能性が期待される一方で、顧客により良い体験を届け、ロイヤルティーを高めていくためには、企業にはどのような視点や取り組みが必要なのでしょうか。そこで今回は、コロナ禍におけるCXの考え方や情報体験、成功のポイントについて、大学・企業それぞれの立場から事例なども交えてお届けいたします。

※CX(カスタマーエクスペリエンス)
ある商品やサービスの利用に対して、商品やサービスを認識してから購入検討、購入後のサポートまでの一連の流れすべてにおける体験、または価値のこと。CXが指すエクスペリエンスは、購買プロセスをとりまく経験全体を対象としており、UX(ユーザーエクスペリエンス)はCXの一部分といえる。



基調講演

オンライン社会におけるコミュニケーションデザイン
−オンラインのメリットとデメリットをCX の観点から考える−

<講師>
中央大学 国際情報学部 教授 飯尾 淳 氏

博士(工学)技術士(情報工学部門)。人間中心設計推進機構認定 人間中心設計専門家。ユーザーインタフェース、感性情報学、ソフトウエア工学、行動情報分析などの「システムと人間のインタラクションに関する研究」に従事。

空間・時間を超えるオンライン

世界が新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われてから1年以上がたちました。ニューノーマルという言葉がありますが、我々は今、激変する社会の中でいろいろなことを考えなければいけない状況に追い込まれています。
人の移動が制限された中でテレワークや大学のオンライン講義化が推奨され、企業と顧客のビジネスコミュニケーションの接点としてZoomやTeamsなどのツールが一般的になりました。
オンラインのメリットは、空間的・時間的な制約をいとも簡単に超えられる点です。オンラインであれば場所に関係なく世界中に情報を発信でき、移動時間を節約できます。また、文書や動画などをデジタルツールに記録してオンラインでアクセスする形にすれば、いつでも好きなときに閲覧できるようになります。

授業の様子。台湾と日本の高校をオンラインでつなぎ、
互いに第一外国語である英語で交流を深めた。

我々が行っているオンラインを活用した取り組みに、日本と海外の高校をつなぎ、親交を深める異文化教育プロジェクトがあります。互いの国の言葉が話せないため、コミュニケーションは英語で行います。このようなネイティブではない、ノンネイティブな英語を使ったグローバルな教育を以前より簡単に実施できるようになったことは、ひょうたんから駒といいますか、このパンデミックな状況の中でオンラインツールがより浸透した結果、うまく進められた事例の一つといえます。

バンド幅に見る限界と問題点

上に行くほど伝わる情報量が多く、良質なコミュニケーションとなる。

一方でオンラインのデメリットもあります。最大の課題はいわば「バンド幅」が狭いという点です。ここでいうバンド幅とは、コミュニケーションにおける時間あたりの情報量の指標です。図を見るとわかるように、対面のバンド幅は広く、オンラインのバンド幅はそれほど広くありません。バンド幅が狭いとどういう問題があるのか。端的な例は、ネット炎上です。人間は元来、言葉でコミュニケーションを取る生き物ですが、実際には言語による「バーバルコミュニケーション」だけではなく、表情や手ぶり身ぶりなど非言語による「ノンバーバルコミュニケーション」が非常に重要なんですね。チャットやメールなど文字だけによるコミュニケーションはバンド幅が狭いゆえに真意が伝わりにくく、誤解も生まれやすい。少しでもバンド幅を増やそうと工夫されたのが絵文字やスタンプです。

また、双方向で顔も見えるオンライン会議でもPCの画面越しではお互いの細かな表情や雰囲気を感じ取りにくく、なんとなくやりづらいという経験があるかと思います。さらにオンラインコミュニケーションだと結びつきが希薄な傾向が高く、大学であれば学生同士の一体感、企業であれば社員の皆さんのロイヤルティーの醸成がしにくいなどの問題もあります。

オンラインにおけるCXの考え方

こうしたオンラインならではのデメリットを把握し、不足する部分を補っていくことは、企業におけるCXの観点からも非常に重要です。
例えば、オンライン上にポップアップが出てきて、質問を入力すると回答が表示される「チャットボット」という人工知能を活用した自動会話プログラムがあります。コールセンターなど人件費削減のソリューションとして最近増えていますが、これも果たして本当にユーザーの期待に応えられているのか。相手が人工知能なので「これどうなの?」という回答にモヤモヤすることもあります。
同様に大学のオンライン授業も本当に考えなければいけないことは、オンラインを活用することでいかに効果的に講義の内容を伝え、教育にプラスになるかということ。私自身、学生同士で問題解決できる掲示板の設置や今後増える予定の対面授業においても、まずオンライン講義のビデオを作って事前に配信し、教室でそれを基に議論する反転授業と呼ばれる形式にチャレンジしています。ぜひオンラインによる目先のメリットにとらわれず、その利点を最大限に活かしたCXに取り組んでいただけたらと思います。



事例セミナー1

顧客体験(CX)を成功に導くための3つの要素

<講師>
株式会社U’eyes Design 代表取締役 田平 博嗣 氏

使いやすい製品・サービスのデザイン、生活イノベーション創出支援のデザインコンサルティングに従事。著書に、「UX × Biz Book-顧客志向のビジネス・アプローチとしてのUXデザイン-」(マイナビ出版)など。

人間の意思決定や行動の仕組み

より効果的な顧客体験(CX)の実現には、人間の本質を理解することが非常に重要です。人間の脳には(図1)のような作動様式があり、大別すると「熟慮するシステム」と「短慮的に予測するシステム」のせめぎ合いで行動しています。圧倒的なパーセンテージを占めているのは後者です。この「短慮的に予測するシステム」は別名“ゾンビシステム”ともいわれ、熟慮する思考の部分が、このゾンビシステムの暴走を制御している、そんなふうに理解していただければと思います。

熟慮はエネルギー消費が大きいため、Thinking(思考)は10%しか働きません。 そのため、「怠け者のコントローラー」と呼ばれています。

(図1)人間というシステムの理解

脳はエネルギー消費の大きいことをなるべくやらない方へ動くので、例えば疲れていたり、眠かったりすると全てゾンビシステムに任せてしまう特性があります。つまり人間は、秩序や確実性を好み、エネルギーをたくさん蓄えたい生き物で、逆に無秩序や不確実、エネルギー支出を伴うものを大変嫌うわけです。目の前にサラダとチョコレートケーキを差し出されると、大体はケーキの方に手を出してしまうし、階段とエスカレーターがあれば無意識にエスカレーターの方に足が向いてしまう。当然、製品やサービスを選ぶ際にも、なるべく身体的コストや認知的コストがかからない方を無意識に選びます。つまり、こうした脳の作動システムにすんなり受け入れてもらえるデザインをすることが、選ばれる製品サービスを生みだすためにも、CXの観点からも大きなポイントになります。

ニーズをウォンツへ。CX成功の要素

(図2)CX成功への3つの要素

成功するCXには、次の3つの要素が必要です(図2)。①の利用文脈には、その製品サービスの達成目的に対して「支出する利用資源が小さく」なるようにテクノロジーやサービスが組み込まれている必要があります。

 例えば、なにかを飲みたい人に対してどんな欲求を満たす製品サービスを提供するか。それはその人が置かれた環境や状況によって変わります。もし、仕事の合間であれば飲みたいのはコーヒーかもしれない。大きな商談を成功させた夜ならビールかもしれないし、暑い中歩いていたら冷たい水、ダイエットや健康に気遣っていたら野菜ジュースかもしれません。つまりニーズをウォンツへ変換するには、こうした「文脈」が必要だということです。

②の利用目的は、目的の達成頻度、周期性、必要性や代替性がどれだけあるかを抽出することです。それに対して利用資源をどのくらい投入するかというところでお互いの見積もりがはかれます。③の利用資源は、その製品サービスを使うためにユーザーが支払う支出をいかに下げるかということで「経済・時間・空間・能力・社会」の要素が挙げられます。例えば、時間は短縮できる方がいい(=時短化)、空間はなるべく占有しない(=小型化)、使える場所を限定しない方がいい(=モバイル)など、それぞれの利点が製品サービスに生かされ、簡単に享受できるかを考えます。

体験設計の失敗事例と成功事例

皆さんは「パスポート電子システム」をご存じでしょうか。莫大な予算をかけたにもかかわらず、利用者が少ないためパスポート1冊あたりの相対費用が3,000万にもなり、1年足らずで運用終了となりました。電子申請で便利になるはずが、マイナンバーカードやICカードリーダー・ライターがないとダメだったり、戸籍謄本などは書留で郵送しなければいけなかったり、パスポートは窓口に取りに行く必要があったりと、利用者側の手間が多すぎて誰も使わないシステムになってしまった残念なCXの失敗例です。
一方、3つの要素を備えた成功事例が「Oisix」の食材宅配サービスです。忙しい夫婦共働き世代や調理する労力や食材余りを減らしたい高齢者層に向けて素材や味にこだわった使い切りの食材を届けることで、売り上げを飛躍的に伸ばしました。その製品サービスがどんな提供価値を与えているのか。ご紹介したCXの3つの要素から見積もることができるので参考にされてみてはいかがでしょうか。



事例セミナー2

何から始める?CXとナッジ

<講師>
トッパン・フォームズ株式会社
企画本部 CX企画部 CX推進G 課長 指澤 竜也
自動車系シンクタンクなどで2000年よりユニバーサルデザインやユーザビリティに従事。
2015年よりトッパンフォームズでCXに従事。人間中心設計推進機構認定 人間中心設計専門家。2017年、HCDベストプラクティスアウォード、プロセス・メソッド部門において優秀賞を受賞。

トッパン・フォームズ株式会社
販売促進本部 リージョン企画販促部 関西企画G 主任 田代 良太郎
2009年トッパンフォームズ入社。関西を拠点にマーケティングリサーチやデータ分析、コピーライティングに従事。DMマーケティングプロフェッショナル。人間中心設計推進機構認定 人間中心設計専門家。2015年全日本DM大賞金賞グランプリ、同2020年、2021年銅賞。

コロナ禍でのナッジ

CXとは顧客体験の略語、ナッジというのは肘で「ちょっとやってみなよ」と促すような行動経済学の手法になります。命令ではなく、共感を得て自主的に選択してもらうことがナッジで、その結果、CXが高まります。
ナッジ導入の動きとして、例えば環境省では「コロナ禍におけるナッジの募集」を行いました。消毒用アルコールへの導線を分かりやすくしたり、掲出するメッセージの内容を変えることで飽きがこないようにする、ということがナッジの活用事例として紹介されています。
弊社ではサーモグラフィーを入り口に設置することで、“対策を取っているので感染リスクが低い”という安心感を与えることや、「密を避けろ」ではなく「ちょっと離れるとコロナがすごく離れる」など言い方を少し変えることでモチベーションを上げる、ということもナッジと考え、積極的に取り組んでいます。皆さまもこのようなちょっとした工夫からナッジを取り入れてみてはいかがでしょうか。

続いて、ナッジの手法を用いた具体的な事例をご紹介いたします。
ナッジは行動経済学だけではなく、体験を設計するUXデザイン、情報伝達を助けるコピーライティングやユニバーサルデザイン、人間工学やユーザビリティに基づいた利用しやすさなど、さまざまな手法やノウハウを活用するという発想のもとで弊社では行っております。

CXとナッジを活かした成功事例のご紹介①

株式会社オプテージさま:
1つ目のオプテージさまの事例は、ペルソナ像をイラストにして自分ごと化してもらう、読みやすい配色やデザインでユーザビリティを改善し、お客さまに自分から行動してもらう、というナッジの事例となります。

詳しくは以下の事例紹介ページでご覧いただけます。弊社得意先であるオプテージさまへのインタビュー記事もございますので、ぜひ併せてご覧ください。

CXとナッジを活かした成功事例のご紹介②

トッパン・フォームズ株式会社(自社事例):
2つ目は弊社で実施した法人営業DMとなります。ギミック、アバター、動画、eギフトでおもてなしをし、思わず行動してしまう体験デザインでナッジを取り入れた事例となります。

詳しくは以下の事例紹介ページでご覧いただけます。

TOPPANエッジのCXとナッジ

弊社ではCXへの取り組みとして、長年培ってきた顧客視点や科学的根拠を組み合わせた、形式にとらわれない自由な発想で、人に、社会に、感動と笑顔をもたらす情報体験をお届けします。昨年には、CXに係る独自の研究・共創・情報発信を行っていく場として、『LABOLIS X(ラボリスクロス)』を設立しました。

情報をより分かりやすく伝え、導き、ユーザーを動かすユーザビリティの改善といった得意分野に加え、今後も情報の受け手の喜びや満足度を引き出すナッジの手法を取り入れることで、より質の高いCXの提供を実現していきます。
CXやナッジについて、課題や気になることがございましたらぜひトッパンフォームズまでご相談ください。


※ 本記事の内容、登壇者のプロフィール情報はセミナー開催当時のものです。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。​

2021.05.10

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